歌声の音域のはなし

今回のテーマは、歌声の『音域』についてです。

歌の活動を考えるにあたって、とても重要なテーマだと私は考えていますので、是非最後までご覧ください。

突然ですが、皆様は自分の歌声の『音域』を知っていますか?

『音域』とは、出せる音の高低の範囲のことを言います。

各楽器には必ず音域が決まっており、出せる音の範囲が狭い楽器もあれば、低い音から高い音まで幅広く出せる楽器があります。

歌声にも同じく音域があり、それは人によって全く違います。

高音がバンバン出せる人もいれば、逆に低い音がよく響く人もいますし、上から下まで幅広く出せる人もいます。

ちなみに私は、高い音は地声で中央の『ファ♯』くらいまでしか出せません。

これは、J-POPの歌だとほとんどの曲で最高音が出せない音域なので、カラオケに行った際はよく音を下げて歌います。

逆に、低音はよく出るので、下げると非常に歌いやすくなります。

このように、自分の音域をよく把握していると、「高くて歌えない!」と思っていた曲もキーをいくつか下げたら歌えるようになったりします。

自分の音域外の音がたくさん出てくる曲を無理をして歌うことは、例えるならばチェロでバイオリンの音をむりやり出そうとしているのと同じです。

人それぞれ、声帯の大きさも身体つきも違います。『歌声』という楽器は、形も音色も全員違うものなのです。

さて、ここまでは音域に関するはなしをざっとしてきましたが、ここからは『教育者』の立場として、いかに歌の音域を理解するか・・・のはなしをしていきます。

私は、幼稚園の音楽教諭なので、常に『幼児の歌声の音域』について意識しながら活動をしています。

私がこれまで重ねてきた経験から、ある程度幼児期の一番歌いやすい音域というのがわかってきました。

ピアノで表すと、『真ん中のド』から『上のド』までの1オクターブです。

幼児はまだ音域が非常に狭く、この1オクターブもコントロールできない子はたくさんいます。

ただ、常にこの1オクターブ内に音が入るように歌っていると、歌声がどんどん自分でコントロールできるようになってきます。

同業者から時々、「子どもの歌がなかなか上手にならない」という相談を受けることがありますが、よくよく話を聞くと、ものすごい高い音が含まれていたり、音域の幅が広すぎる曲をチョイスしていたりと、選曲の時点で失敗しているケースは多いです。

また、幼児期でも年齢によって音域は少しずつ違います。

年中くらいがちょうどこの1オクターブが歌いやすい年齢で、年長になると、一つ下の『シ』や、上の『レ』くらいも正確に歌える子が増えてきます。

逆に年少だと、低い声や高い声はまだコントロールできないので、『ミ』~『シ』ぐらいの狭い幅でしか歌えない子が多いです。

以上の事を把握したうえで、実際に歌の指導の際にどうするとよいのか?

例えば、「チューリップ」という童謡があります。

ハ長調(ピアノの白鍵のみで歌う場合)だと、「ドレミ~ドレミ~ソミレドレミレ~」となります。

この曲はハ長調だと、最低音は『ド』、最高音は『ラ』になります。

ちょうど歌いやすい1オクターブの中にメロディが全て入っているので、この曲は幼児でも歌いやすい曲なのです。

少し工夫するならば、年少児はまだ音域が狭いので、『レ』から始まるニ長調か、『ミ♭』から始まる変ホ長調あたりに《移調》してあげると、非常に歌いやすくなります。

次に、「たなばたさま」を例に挙げます。

この曲は、ハ長調だと最低音が中央のドよりも4つ低い『ソ』になってしまいます。

一方、最高音は真ん中の『ソ』なので、もう少し高く上げることができます。

最低音が中央の『ド』、最高音が上の『ド』になるように、ヘ長調に《移調》してあげると、非常に歌いやすくなります。

この《移調》という考え方が、指導者として極めて重要なテクニックになります。

子どもの声の音域に合わせて、カラオケの機械のように伴奏の音を下げたり上げたりしてあげるのです。

どちらかというと、ギター弾きの方々のほうが、コード伴奏に慣れているので、《移調》は容易かもしれません。

いつも無伴奏で歌うのなら、是非とも子どもの音域に合わせて最初の歌い出しの音を意識してみてください。

よく、指導者が自分の得意な音域で歌い出してしまい、子どもが非常に歌いにくくしている光景を見ることがあります。

歌の指導を行っている立場の方は、明日から『子どもの得意な音域』について意識しながら歌の活動を行ってみてください!

p.s.

ちなみに、小学生は高学年になるにつれて段々と音域が広がってきて、下の『ソ』とか上の『ミ』くらいまで歌で使えるようになります。中学生からは、男性は声変わりをし、女性も声部が分かれていきますので、3部や4部合唱が可能になってくるのです。選曲の際、まずは音域を意識してみてください!