思うように歌えなくなる症状「イップス」の話

本日は、「イップス」という症状についてお話をしたいと思います。

みなさまは、この「イップス」という言葉を聞いたことはありますか?

【イップス(イップス症状)は心の葛藤(意識、無意識)により、筋肉や神経細胞、脳細胞にまで影響を及ぼす心理的症状です。スポーツ(野球、ゴルフ、卓球、テニス、サッカー、ダーツ、楽器等)の集中すべき場面で、プレッシャーにより極度に緊張を生じ、無意識に筋肉の硬化を起こし、思い通りのパフォーマンスを発揮できない症状をいいます。】

※日本イップス協会HPより引用 http://www.japan-yips.com/about/

主に野球やゴルフなどでよく聞く症状のようですが、野球の具体例で言うと、ピッチャーが練習ではストライクがたくさん入るのに、試合になると暴投を繰り返したり、内野手の何でもない内野ゴロの処理が、試合だと一塁への送球が全く届かなくなってしまう・・・などです。

私の場合は、声楽・合唱において、まさにこのような症状に陥った時期があり、長い間苦しみました。

先生や指揮者から厳しく・細かく指導を受けることが続くと、家での練習や団員同士の練習などでは全く問題がないのに、先生や指揮者のレッスンの時だけ、曲の特定の箇所になると必ず決まって声が裏返ったり、ガラガラとかすれたりして、自分では普段通り出しているつもりでも声が全然出せなくなる・・・ということが頻繁に起こるようになりました。

レッスンでミスをするとまた厳しく指導され、ますますうまく歌えなくなる・・・という悪循環に陥り、好きでやっていたはずの「歌う」という行為自体が苦痛に感じるようになってしまって、歌や合唱の一線からは退くことを決意しました。

もともと神経質で、人から怒られる・叱られるといったことが苦手だった私は、昔から「自分らしく、伸び伸びと生きていたい」というのがモットーでした。

今では、幼稚園の音楽教諭として毎日子どもたちと一緒に歌っていますが、プレッシャーから解放された私は伸び伸びと歌を楽しむことができています。

イップスという症状は、スポーツだけでなく、私の例のように、歌い手さんや楽器の演奏家にもたくさん起こりうる症状だと思います。

イップスのことを知ったのは、野球の記事をたまたま読んでいたときでしたが、自分の症状にピタリと当てはまって、「そうか、自分はイップスだったのか」と、すごく腑に落ちたことを覚えています。

イップスのことを知ってから、「病気だったのだから仕方がない」と割り切れるようになり、随分と気がラクになった気がします。

私は、末期にはかなり重度のイップス症状が出たと記憶しており、『歌を続けながら症状克服を目指す』ことよりも、『完全に辞める』という方向を選択しました。

この選択は私にとって最良の選択で、辞めてからものすごい解放感に包まれたことを今でも鮮明に覚えております。

今回は、私の体験談も含めて「イップス」について触れましたが、歌や楽器・スポーツなどを教わる側も、指導者側も、この症状のことを知ることで、練習方法や指導方法を見つめなおすきっかけになるのではないでしょうか。

また、子育て中の親御さんなども、この症状のことを知ることで、我が子への声かけや関わり方などについても是非じっくり考えていただきたいなと思っています。